同棲することが決まった
彼女の転職活動が終わった。新しく住む家もスムーズに決まった。
彼女が怯えていた問題も、無事に決着がついた。
「東京に行ったらもう会えないね。おじいちゃん、おばあちゃんを置いていくんだ」
そう言われていた彼女は、自分が東京に行くことで家族を傷つけてしまうことをひどく恐れていた。同棲の話が2年ほど前からあったにも関わらず、遅々として計画が進まなかったのは、この問題が常に彼女の心を重くするものであったからということも理由の一つにある。
彼女が家族のことを大切にして心を痛めている姿を見ては、僕は自分の無力さと、もし自分がシス男性として生まれていれば、彼女の家族を安心させることができたのではないかという想像を繰り返していた。
彼女が第一志望の転職先に内定をもらって、僕にその知らせをくれた時、彼女は喜びと同時に不安な様子をあらわにしていた。でもそれも、数日前にようやく片がついたのである。
お母さんに始まり、次に祖母へとタイミングを測りながら、彼女は伝えていた。
転職先が決まって東京に行くこと、住む家ももう既に決まっていること、大学時代の友人のさねすけと同居するということを伝えると、どうやら思いの外すんなりと話が済んだらしい。彼女曰く、就職先の企業がおばあちゃんでも知っている名前だったからそこまで反対されずに済んだのだろう、という見立てだったが、そうだとしたらとても運がよかったと思う。肩書や権威に守られたように感じた。
この話がつく前まで、彼女は
「最悪、駆け落ちみたいになっちゃうかもね。」
なんて困ったように言っていたが、そういう結果にならずに済んだのは本当に良かったと思う。彼女の安堵している様子をみて僕も心底ほっとした。
彼女と共に暮らすのは、4月から。
住み慣れたこの街。
出ては戻り、出ては戻ってきたこの街を、ようやく出ることに決まった。
4年間の遠距離が終わる。
今年は外に出かけて、新しいモノやコトに出会いたいと思っている。
どうか朗らかな日々を、今年も送れますように。